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Application:プロテオミクスサンプルの取り扱い Proteomics Sample Handling

はじめに

プロテオミクスは、有機体蛋白質の包括的な研究であり、細胞の情報が満載のスナップショットを提供してくれます。過去何年かの間に、プロテオミクスは膨大な量の蛋白質レベルの情報を産出できる強力な技術であることが明らかになってきました。 プロテオミクス実験の成功如何が、サンプル調製ステップに決定的に依存することが近年認識されてきています。プロテオミクスに用いる理想的なサンプル調製プロトコールは、対象となる蛋白質を生体サンプルからできるだけ大量に分離するだけでなく、サンプルの完全性を至適に保存できるものでなければなりません。

一般的なプロテオミクスの手順には次の3ステップが含まれます。

  • サンプルの分離では、すべての蛋白質または対象とする蛋白質が、その固有の特性や量的組成比を変えることなく、核酸・脂質・糖類および 低分子などの他の細胞構成成分から分離します。
  • その後、蛋白質サンプルをトリプシンで消化処理します。
  • 蛋白質の消化後、得られたペプチド混合物をLC分離し、質量分析法で検出します。

蛋白質サンプルの複雑性を低減させるため、蛋白質分画と呼ばれる、任意の追加ステップをトリプシン消化の前に行うことも可能です。

プロテオミクスの手順は一般的に煩雑で時間を要することから、蛋白質分解酵素活性を減じることにつながります。また費用がかさむ阻害剤カクテルの使用を省略するため、ほとんどの操作を< 4℃で行わなければなりません。標準的なプロテオミクス手順の2つの重要な段階、すなわち蛋白質の分離と蛋白質分画に組み入れることができるbiocisionのベンチトップ用製品を紹介します。

  • CoolRack 高熱伝導チューブブロックは氷上に直接置くことができ、熱源温度に迅速に適応します。この製品を使用することで、サンプルを直接氷に挿入せずに冷却することが可能となります。
  • CoolBox XT アイスフリー冷却システムは、氷や電気、電池を使わずに、サンプルを一貫して10時間以上< 4℃に冷却します。CoolBox XTの使用により、サンプルを秩序よく取り扱いやすくする作業スペースを得ることができ、半日~終日を要するすべてのサンプル調製ステップを一定の温度下で行うことができます。

 

1) プロテオミクス用サンプル調製

問題点

  1. 蛋白質は、室温におくと、数秒の間に脱リン酸化、脱アミノ化または酵素消化などの修飾を受け、これらのプロセスを阻害するため、<4℃の低温で作業を行うことが必須である。
  2. 超音波によるホモジナイズ処理はサンプルの均質化に頻繁に用いられており、蛋白質の抽出前に必要なステップである。処理中にサンプル温度が上昇しないよう注意を払う必要があり、マイクロチューブは処理中砕氷に入れなければいけない。

マイクロチューブをアイスバケツ中にばらばらに置いた状態では、サンプルの整理、安定性および温度の一定性を得ることは難しい

解決策

  1. CoolRackモジュールは、氷上でのチューブ取り扱いの際、簡便にすべてのサンプルを一定温度に保つ。
  2. このモジュールは氷温に急速に適応し(60-90秒で<4℃となる)、全チューブを均一温度で(+/-0.1℃)、安定に秩序正しく、乾燥した状態で保つ。
  3. CoolRackはサンプル温度を確実に一定維持し、サンプルを同定しやすくし、再現性の向上に寄与する。
  4. 蛋白質サンプル分画用の多くの調製キットはマイクロチューブを用いるものであり、CoolRackを操作手順に加えることで、その操作性と性能を向上することができる。

 

2) プロテオミクス用サンプルの分画

全プロテオミクスサンプルは何千もの蛋白質を含んでおり、一回の実験で完全に分析するには複雑すぎます。したがって、電荷、サイズ、疎水性またはリン酸や糖付加などの機能要素で分画することによって得られる、プロテオームのサブセットもよく用いられます。 対象となる蛋白質が分離された後、標準的なプロテオミクスの手順では、サンプルはトリプシン消化され、その結果得られるペプチド混合物がLC分離されます(LC-LC-MS-MSプロテオミクスワークフロー)。分画ステップでは、蛋白質サンプルの複雑さを緩和するための追加ステップとして、トリプシン消化とLC-MSステップ段階の前に蛋白質分画操作が行われます。

 

問題点

市販されているサンプル数が12以下の分画キットのほとんどは、可溶・結合・洗浄・溶出ステップをマイクロチューブのフォーマットで行う。 温度を<4℃で一定に保つことは、サンプル固有の特性と質を確保するために必須である。ほとんどの分画キットでは、サンプルを氷バケツの中に直接入れるように示唆しているが、これは、サンプルの整理整頓、一様な温度の維持およびサンプル汚染の可能性などの観点からは問題を含むものである。

解決策

CoolBox XTは、キットを用いて蛋白質分画をする場合、終日を要する操作の間、サンプルを低温(< 4℃)に保つ氷を使用しない理想的な冷却ワークステーションである。CoolBox XTは、チューブを立てるウェルの位置にかかわらず、すべてのサンプルを最低10時間、再現性を確保しつつ、一貫して冷温に保つ。

 

氷を使用しない実験ベンチでのサンプル冷却

CoolBox XTアイスフリー冷却システムは、氷を用いる冷却法の代替法であり、他に匹敵するものはありません。CoolBox XTは電気や電池を必要とせず、その代わりに内部冷却カートリッジであるXT冷却コアを通じて、10~16時間までサンプルを均一に、また再現性よく低温(0.5-4℃)に保ちます。 また、デザインがコンパクトで、長方形の通常の氷容器の半分のスペースしかとらず、貴重な実験ベンチ空間を確保します。
CoolBox XTは組み立てが簡単で使いやすく、XT冷却コアを-20℃フリーザーで予備冷却し、CoolBox XTベースにセットするだけで完了します。室温にある(予備冷却したものが望ましい)CoolRackチューブモジュールまたはCoolSinkプレートモジュールをXT冷却コアに乗せ、サンプルモジュールが<4℃に平衡化するのを待ちます。その後、チューブまたはプレートサンプルをセットすることで、長時間低温に保ちます。

 

  • 蓋を閉めた状態で最大16時間、開けた状態で10時間までサンプルを低温に保つ
  • マグネットパーツにより組み立てが簡単で、操作も確実
  • 冷却コアに現在温度を確認できる温度インジケーターを搭載
  • 洗浄しやすく、漂白剤またはアルコールで洗浄できる
  • クリーンベンチや安全キャビネット、または氷の使用が禁止された、混入汚染の心配がある場所での使用に理想的
CoolBox XTの性能

(左)CoolBox XTにセットした微量遠心チューブ。(中)蓋を開けた場合は10時間まで、(右)蓋を閉めた場合16時間以上サンプル温度は均一に1℃近くに保たれる。