コールドチェーン
メリーランド州ベセスダのアメリカ国立衛生研究所(NIH)内のアメリカ食品医薬品局研究室(FDA labo)で、幹細胞研究を行う科学者。
(出典: Wikimedia)
*Astero Bio社が旧medcision社の事業を承継しておりましたが、Astero Bio社がBioLife Solutions社に吸収合併されたことにより、現在はBioLife Solutions社が事業を引き継いでいます。
近年、医療は急速に変化しています。
後期床試験および製品化が目前である細胞治療法は、製造方法、技術も、そのペースに合わせる必要があります。
BioProcess Online[1]で、同紙のチーフエディターのTrisha Gladd氏が、制御性T細胞の専門家であるDr. Karim Leeおよび旧medCisionの研究開発部門長Dr. Eric Kunkelと対談を行っています。対談の中で、一貫性のある効率的な細胞融解が、細胞製品のばらつきを必要最小限に抑える上で、どのように対応するのか説明しています。
細胞を取り扱う際の問題の一つとして、ばらつきの問題があります。もともと、細胞は環境の変化、特に凍結細胞の融解時に起こる温度変化に対して極めて繊細です。
デンマークのコペンハーゲンのCardiology Stem Cell Centerが発行した包括的な新しいプロトコル[1]では、旧medcision社のThawSTAR細胞融解システムが不可欠な要素として挙げられています。
読者の大半がご存じのように、ヒト間葉系幹細胞(hMSCs)は、現在臨床研究下で熱い注目を浴びている、多くの新しい細胞を用いた療法の基礎となっています。それらの療法の可能性は、免疫抑制能および再生能という特性に基づいています。凍結保存が”現場の”細胞療法において、実践的に必須であるということはほぼ全ての研究者が同意しており、現代の凍結保存や融解方法は、これらの治療特性を保護することを目的としなければなりません。
コペンハーゲンの研究者達は、凍結保存用培地、凍結保護剤(CPAs)、凍結容器、凍結温度、冷却および加温速度のような様々な要素を考慮して有効な臨床的幹細胞保存プロトコルを定義しました。
適切な凍結保護剤を選択する際に、最も難しい問題の一つとして、細胞を透過し、かつ毒性が低い凍結保護剤を見つけることが挙げられます。当然、DMSOは細胞透過性が高く、細胞生存率の保護に優れた実績を持つことから、最も広く使用されている凍結保護剤です。しかし、DMSOは毒性が高く、臨床環境においては融解後の洗浄や細胞投与前の希釈が必要です。それゆえに、DMSOの代わりに代替の凍結保護剤を使用したり、または、より一般的にはDMSO濃度を下げるため、別の凍結保護剤をDMSOと組み合わせて使用します。冷却速度もまた、hMSCの生存率において重要な要素です。氷晶形成による細胞破壊を回避するため、冷却速度は慎重にコントロールしなければなりません。
著者らは、受動的な凍結の方が冷却速度制御型フリーザー(プログラムフリーザー)を使うよりも安価であるとしており、特にイソプロパノール不要の受動的凍結容器を推奨しています。
凍結細胞の保存温度はその生存率に影響を及ぼすため、凍結後1日以内に液体窒素へ移動し、化学的な変化が起こらない温度である-196℃で保存することが推奨されます。
細胞の生存率を守る上では、凍結速度と同じように融解速度も重要です。著者らは、融解に従来のウォーターバスを使用することを大まかに述べていますが、より確実に加温速度をコントロールする技術(特に旧mecision社のThawSTARシステム)が利用できることについても述べています。ThawSTARは現在様々なバイアル形状に対応しており、臨床での使用に対する適応性が向上しています。
著者らは、結局のところ、融解直後の生存率が細胞の回復や機能を本当に反映しているわけではないと注意しています。「不可視の」ダメージが、アポトーシスなどを引き起こす可能性があり、そのため予測不能な温度変動から細胞を保護することが非常に重要です。初期の臨床試験では、凍結保存したMSCsが、新鮮な分離されたばかりの細胞と機能的に同じなのかという議論が噴出しましたが、最近の研究により、これらの懸念が杞憂であったとの結果が出ています。[2] 凍結保存したMSCsが、新鮮な細胞と同程度の機能を有していないのではないかという不安を投げかけるよりも、凍結保存したものが、新鮮なものと同程度に良好であり、将来のアプリケーションの為に機能的な能力が保持されていることを保証する技術の導入を提案する方が、合理的ではないでしょうか。
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