ピペット・ピペットチップ新型コロナウイルス関連記事
Brian Perry, Ph. D.
Product Manager – Consumables
世界中の研究機関が、新型コロナウイルスSARS CoV-2の検査方法・治療法を早く開発するため鋭意活動されています。逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)を使用した生体分子の検査には、活性度が損なわれていないウイルスRNAの存在が必要です。そのため、検体は、無損傷のRNAを捕捉できる可能性を最大限にした方法で収集する必要があり、さらにRNaseおよびPCR阻害剤が含まれないことを認証したプラスチック製品(チューブとプレート)とピペットチップで処理する必要があります。
信頼性の高いRT-PCR検査は、ウイルスの蔓延と闘うために不可欠なツールです。被検者の感染性病原体を特定し、それに対する効果的な治療法を開始し進めるには、RT-PCR検査が重要です。診断検査により、集団内での感染の進行を監視し、改善策と封じ込めアプローチの有効性を評価することができます。また、正確なRT-PCR検査により、疾患のベクトル、つまり感染方法と感染経路に関する重要な情報が得られます。例えば、感染した個人の家族や同僚がCOVID-19陽性と診断された場合、同じ環境内の軽い接触でもウイルスが伝染する可能性があることがわかっています。
偽陰性:RT-PCR検査自体が適切であっても、検体の質が悪ければ意味がありません
SARS CoV-2は、主に、比較的検体を取り出しにくい肺および鼻咽頭内に存在しているようです。RT-PCR検査のために被験者の検体を取得するには、長い綿棒を鼻孔から鼻咽頭腔の奥深くまで上手に挿入する必要があります。綿棒での検体採取が経験豊富な臨床医によって管理されていない場合、感染者ウイルスの特定に用いられるRT-PCR診断手順は、活性レベルの低いウイルスによって、偽陰性の結果をもたらす危険があります。
さらに、疾患の経過に伴うウイルス量の変動により、ウイルス検体の有効性が変動します。発症までの潜伏期間が約2週間の場合、単にタイミングが悪いことが原因で、検体採取が適切でもSARS CoV-2ウィルスが検出されない場合があります。細心の注意を払って採取した患者の検体でさえ、この理由で偽陰性を示すことがあります。最後に、ウイルスRNAの完全性が損なわれると、RT-PCR検査でウイルスを検出できなくなります。
RT-PCRベースの診断検査
SARS CoV-2(COVID-19)ウイルスは、他のコロナウイルス、HIV、エボラ、一般的なインフルエンザAおよびBウイルスと同様に、保護タンパク質アセンブリまたは「カプシド」内にRNA(リボ核酸)の一本鎖を備えています。SARS CoV-2とインフルエンザウイルスは類似した遺伝組成を共有しているだけでなく、それらの症状は非常に似ているため、外部症状に基づいてどのウイルスに感染したのか特定することは非常に困難です。これが、ウイルス固有の診断検査が必要な理由です。RT-PCRは、SARS CoV-2特異的リボ核酸配列を示すことができる生体分子検査です。
逆転写PCRは、2段階のプロセスで1本鎖RNAを2本鎖相補DNA(cDNA)に変換します。最初のステップは逆転写(RT)です。これにより、ウイルスRNA分子のヌクレオチドを逆にしたものが、cDNAの一本鎖として組み立てられます。2番目のステップでは、PCRを使用して、初期cDNAの2本鎖cDNA(dscDNA)バージョンを指数関数的に増幅します。指数関数的なPCR増幅後、DNAは検査、シーケンシング、クローニングなどに使用するのに十分な量で存在します。図1は、典型的なRT-PCR増幅スキームを示しています。
元のウイルスRNA配列を含む二本鎖cDNAは、元のRNA種を表すために使用されます。感染性RNAウイルスの定量が必要な場合は、RT-PCRを定量的PCR(qPCR)と組み合わせてqRT-PCRを生成できます。この手順で、感染レベル、薬物療法に対する結果など反映する、患者の「ウイルス量」を測定します。
図1: RNaseフリーの条件下では、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)は、SARS-CoV-2を非常に正確に検出できる方法です。
RT-PCR検査で信頼性の高い結果を得るには、その分子的および酵素的な相互作用が、汚染物質のないクリーンな条件下で行われる必要があります。つまり、RT-PCR検査の処理に関係するチップ、チューブ、プレートなどは、純粋なプレミアム素材のみを使用して製造する必要があり、高度にクリーンな条件下でパッケージ化しなければいけません。プラスチック製品は、製造業者が入念にテストをして、潜在的な汚染物質について検出不能なレベルまで検証し、化学的に反応しないものとする必要があります。
これは特に、RNAの存在に依存するRT-PCR検査に当てはまります。RNAは壊れやすい分子であり、ごく微量のRNaseによっても簡単に分解されてしまいます。RNaseは長く活性が維持される攻撃的な酵素であり、ごく微量でも存在すると、実験室環境内で大混乱を引き起こす可能性があります。そのため、ピペットチップの製造環境やパッケージング環境に存在するRNase、または製造時における人間の接触を原因とするRNaseが、RT-PCR検査結果を危険にさらす可能性があります。SARS CoV-2の存在に関してRT-PCR検査が成功するかどうかは、無損傷なSARS CoV-2 RNAの存在に依存するため、検出可能なRNaseが存在しないことが証明されているピペットチップで検査を実行することが非常に重要です。
BioClean Ultra™ ピペットチップ 汚染物質テスト
レイニンは、RNaseやPCR阻害剤など、さまざまな汚染物質に関して、ピペットチップを検査しています。定量的PCR(qPCR)は、RT-PCRの忠実度を低下させる可能性のある汚染物質の存在について、チップのバッチ検査をするために使用されます。レイニンBioClean Ultra検査は、RNaseの存在について、ピペットチップ業界で最も厳しく検証可能な品質テストを行っています。レイニンの競合他社の多くは、ただ単に、チップが「RNaseフリー」であるという主張をする一方で、この主張を裏付ける検査基準を提示していません。競合他社には、「KU (KunitzUnits」や「femtograms (fg)」などの単位をきちんと提示せず、汚染の定義や範囲を説明しないものもあります。レイニンの競合他社のいくつかは、PCR阻害剤を検査していません。表1を参照してください。レイニンは、PCR阻害剤テストを増幅産物の検出または不検出を示す「バイナリ」手順として採用しています。これが、PCR阻害剤テストの結果を「未検知」とレイニンが報告している理由です。さらに、レイニンBioClean Ultraチップの品質試験は、その製造装置やクリーンルームでの製造工程もきちんと定期的にモニターするように設計されています。このようにして、製造環境の厳格性を継続的に監視し、体系的にコンタミネーション物質の混入が発生していないことを保証しています。
レイニンにおけるBioClean Ultraの清浄度テスト
下の表1は、レイニンの品質試験を、複数の競合他社との間で比較をした方法について示しています。
メーカー | ヒトDNA | 細菌DNA | DNase(デオキシリボヌクレアーゼ) | RNase(リボヌクレアーゼ) | エンドトキシン | タンパク質 | プロテアーゼ | ATP | PCR抑制剤 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
BioClean Ultra™ | <0.32pg | <1pg | ≤10⁻⁷KU/μL | ≤10⁻⁹KU/μL | ≤0.001EU/mL | <2ng/サンプル | ≤500ng/mL | <2×10⁻¹²mg/μL | 未検知 |
ブランド–A | 「フリー」 | - | 「DNaseフリー」 | 「RNaseフリー」 | ≤0.05EU/mL | - | - | - | - |
ブランド–B | <0.40fg | - | - | <8.6fg | <1pg | - | - | <1fg | - |
ブランド–C | <2pg | <50fg | 10⁻⁴KU | 10⁻⁹KU | <0.001EU/mL | <1ng/μL | - | <5.5×10⁻¹²mg | <10増幅可能な対象 |
ブランド–D | 未検知 | - | 未検知 | 未検知 | <0.06EU/mL | - | - | - | 未検知 |
ブランド–E | <1pg | - | 「フリー」 | 「フリー」 | <0.05EU/mL | - | 「フリー」 | 「ATPフリー」 | - |
ブランド–F | 「フリー」 | 「フリー」 | 「フリー」 | 「フリー」 | 「フリー」 | - | 「フリー」 | 「ATPフリー」 | 「フリー」 |
ブランド–G | - | - | <6.25×10⁻⁵KU/μL | <3.125×10⁻⁹KU/μL | <0.03EU/mL | - | - | - | - |
ブランド–H | <30pg | - | <10⁻⁷KU/μL | <10⁻⁹KU/μL | <0.06EU/mL | - | - | - | - |
ブランド–I | <30pg | - | <10⁻⁷KU/μL | <10⁻⁹KU/μL | ≤0.06EU/mL | - | - | <10⁻¹³mg/μL | 未検知 |
ブランド–J | 「フリー」 | 「フリー」 | 「フリー」 | 「フリー」 | 「フリー」 | - | - | - | - |
KU:Kunitz単位 EU:エンドトキシン単位 ng:ナノグラム(係数:10⁻⁹) pg:ピコグラム(係数:10⁻¹²) fg:フェムトグラム(係数:10⁻¹⁵)
「未検知」及び「フリー」は、明らかな汚染が観察されなかったことを示します。仕様やテスト方法は提示されていません。"-"データなし。
表1:汚染物質の検査の比較
表2は、レイニンRNaseテストと、その主な競合他社との比較を示しています。競合他社の多くは、ただ単に、自社のチップ製品が「RNaseフリー」であると述べています。明確な検出限界(LOD)がなければ、品質試験の整合性について結論を出すことは不可能です。
以上から、SARS CoV-2 RT-PCR検査機関は、レイニンのチップ製品に信頼を置いて、検査に臨んで頂けます。
メーカー | RNase検出限界 | 結論 |
---|---|---|
BioClean Ultra™ | ≤10⁻⁹KU/μL | RNaseが検出されない |
ブランド–A | 「RNaseフリー」 | 不明、テストデータなし |
ブランド–B | <8.6fg | 不明、酵素活性が特定されていない |
ブランド–C | 10⁻⁹KU | 不明、酵素活性が特定されていない |
ブランド–D | 未検知 | 不明、テストデータなし |
ブランド–E | 「フリー」 | 不明、テストデータなし |
ブランド–F | 「フリー」 | 不明、テストデータなし |
ブランド–G | <3.125x10⁻⁹KU/μL | RNaseが検出されない |
ブランド–H | <10⁻⁹KU/μL | RNaseが検出されない |
ブランド–I | <10⁻⁹KU/μL | RNaseが検出されない |
ブランド–J | 「フリー」 | 不明、テストデータなし |
表2:RNase検査の比較
レイニン、Pipetting 360° およびBioClean Ultraは、Mettler-Toledo Rainin, LLCの商標です。