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Application:バイオバンキング Bio Banking

はじめに

「標準化された質の高い生体試料の不足は、がん研究の行く手を阻む大きな問題として広く認識されている…科学者たちは、この問題がポストゲノム時代のがん研究の進歩を妨げる重大な障害であると、繰り返し認知してきた。」

全米癌研究所、バイオレポジトリー生体試料研究部

バイオバンクは、科学研究、創薬、臨床医療、そしてトランスレーショナルリサーチがこれから大きく進歩するための鍵を握っています。バイオバンクが世界を変えるアイデアの上位10以内に挙げられているのも、不思議なことではありません[1]。
生体物質とそれに関与するデータは、医学研究や、診断薬と治療薬の工業的開発にとって重要な資源です[2]。バイオバンクの収蔵物は、ヒト、動物または植物由来のもので、小規模でも大規模でもよく、細胞、組織、血液、臍帯血、DNAなど、さまざまな異なる種類のサンプルが含まれます。また、サンプルは健常ドナーあるいは疾患を持つドナーから採取されたものです。
その結果、あらゆる科学領域の研究者が、バイオバンクのサンプルにますます依存するようになってきています。疾患は、非常に小さなDNAの変化(一塩基遺伝子多型)と関連していることがあり、そのようなバイオマーカーの研究に信頼性の高いサンプルを使用することは極めて重要です。適切なプロトコールと先端技術を用いなければ、これらのサンプルの完全性と生存性が不安定なものになる場合があります[3]。 基礎研究および臨床研究、特に細胞療法などの急速に進歩しつつある分野においては、サンプルの取り扱いや温度の小さな変化が再現性に影響を及ぼすかもしれません。biocision製品は、革新的な熱管理技術を駆使し、一貫性と再現性を有した、標準化されたサンプルの取り扱いと温度管理を可能にします。
バイオバンクの典型的な作業の流れの中で重要と思われる領域と、確実に温度を安定させるために推奨するbiocision製品を以下に概説します。
 

バイオバンクの作業の流れ

1.サンプル採取、調整および移動

生体試料の採取、調製および移動中の温度制御は、サンプルの生存と回収において非常に重要です。しかしながら、氷やドライアイスを用いて冷却または瞬間冷凍するという一般的に行われている方法は、煩雑で一貫性がなく、クリーンルーム環境での使用に適さないことがあります。CoolBox XTシステムは独自の冷却コア技術を用い、氷を使用せず高い信頼性をもってサンプルを冷却(0.5~4℃、16時間以上)、または冷凍(-20~0℃、10時間以上)します。 当製品は電気や電池が必要ないため、温度感受性の高いサンプルを施設内で移動する際に生じる問題を解決する理想的な製品です。CoolBox XT をドライアイスに入れ替えると、携帯型のコンパクトな瞬間冷凍器またはサンプル移動システムになります。すべてのCoolBoxシステムは、実験室、cGMP環境、そしてクリーンルームでの使用に簡単に適応します。
CoolBox XTシステムはモジュール式であり、クライオチューブ、血液採取チューブ、微量遠心チューブ、2Dバーコード付マトリックスチューブなど、さまざまな採取サンプルと容器の収納が可能です。

2.冷凍速度制御下での細胞凍結保存

バイオバンクの作業の中で、細胞の凍結保存は、困難で重要なステップです。CoolCell細胞凍結コンテナーは、受動型の冷却速度制御を行う細胞凍結の新しい標準となり、イソプロパノールを満たした容器や、煩雑なプログラムフリーザーを必要とする時代遅れの方法に取って代わろうとしています。 CoolCellを使用することにより、プログラムフリーザーやイソプロパノールを使用する凍結容器を使用した場合と同等、またはより優れた結果が得られます。また、異なる作業の流れや、一般的に使用される実験容器をカバーする、さまざまな種類とサイズが用意されています。新規のサンプルの品質改善法を開発するための凍結保存血液バイオバンクの利用についての最近の報告[4]の中で、CoolCellに関する内容が引用されています。CoolCellを使用すると、サンプルがさまざまな操作を受ける前に、全ての血液サンプルの基礎条件を確実に同等にすることが可能です。

1. アルコールまたは液体窒素は不必要

イソプロパノールを用いた凍結容器は、初期充填に加えて、イソプロパノールを頻繁に交換しなければならないなど、厳格な管理体制が求められます。また、プログラムフリーザーは、冷却剤として液体窒素を用いるため、定期的に管理、検証および校正する必要があります。 CoolCellはイソプロパノールや液体窒素などのいかなる溶液も必要としません。その結果、管理や校正はいっさい必要なく、継続的な費用や廃棄物も発生しません。最も重要なことは、このような変数の排除することで、CoolCellの凍結プロフィールが再現性の高いものとなっていることです。

2. 容量の柔軟性

CoolCellのポートフォリオは、自家または同種のサンプル採集スケールに理想的なものであり、クライオチューブから注射アンプルまで、さまざまなサンプル容器に対応します。

クライオチューブ用CoolCellの例:

 
注射アンプル用CoolCellの例:

 

3.在庫・低温移動管理

冷凍後、ほとんどのサンプルは加工され、-80℃フリーザーから液体窒素保存容器に移動させる必要があります。移動の際の一時的な温度上昇は、凍結された生体物質の生存能、機能性および有効性に影響を及ぼすため最低限におさえる必要があり、厳格な温度制御を保つことが非常に重要となります。 場合によっては、下流の加工の前に複数回の移動が必要なものもあり、各移動には注意が必要です。Bio Tシリーズは、安全かつ快適な条件で、温度感受性のある重要な生体物質の加工、充填、梱包および移動が行えるように設計されています。小型で携帯型の2~8℃移動用から、フルサイズの移動用ULTまたはCryo Workstationまで、幅広いオプションが揃っています。

BioT ULT Transporterは、凍結生物材料の運搬や、採集場所でのサンプル凍結に適したドライアイスを用いる中型で使いやすい製品です。特許申請中のDIR™技術を利用して、-50℃の内部温度を8時間以上保ち、最大8箱の標準サイズのフリーズボックスを収容できます。 温度計測装置などを利用することも可能で、側面には指が掛かる凹け部分があり持ち運びが簡単です。発泡ポリエチレン高断熱材でできたチャンバーは、ドライアイスや凍結試料を入れた場合でも、非常に丈夫で非吸収性で、触れても心地よい感触です。
ドライアイスを使用するBioT Mobile ULT Workstationは、重要な凍結サンプルの-75~-50℃の温度域での加工および移動を保証する超低温ワークステーションです。 特許申請中のDIR™技術により、サンプルを常に-60℃未満の蒸気の中に完全に浸します。最小限のドライアイスだけで、チャンバー内を30分以内に<-50℃に平衡化します。このオープン型ワークステーションは、一回のドライアイス充填で、蓋の開いた状態で15時間以上の温度安定性を保ちます。組み立てが簡単で、温度監視機能が付いていることから、フリーザーへのラックの収納または取り出し、温度感受性の高いサンプルおよび薬品の分類やパッキング、サンプルの移動・フリーザーの機能不良の際のバックアップとして信頼性が高く、理想的な製品です。
液体窒素(LN2)を用いるBioT Mobile Cryo Workstationは、ラックやケーンの充填、凍結保存サンプルを液体窒素保存容器またはバイオバンク保存システムへの移動に理想的な低温ワークステーションです。特許申請中のLN2制御システムは、内蔵した貯蔵層に精密な量のLN2を注入し、それによりチャンバーが蒸気で冷却され、視界にすぐれた均一で安全な開放型ワークステーション環境を確立します。ユーザーは-150~-60℃の範囲で温度設定が可能です。

これらの製品は、施設内での低温移動管理を至適化するように設計されています。biocision製品についてのより詳しい情報や、各施設のバイオバンキングへの組み込み方については、弊社までお問い合わせください。
 

参考文献

  1. Alice Park. 10 Ideas Changing the World Right Now. Time Magazine. March 12, 2009.
    [http://content.time.com/time/specials/packages/printout/
    0,29239,1884779_1884782_1884766,00.html]
  2. Godard B, Schmidtke J, Cassiman JJ, Aymé S (2003) Data storage and DNA banking for biomedical research: informed consent, confidentiality, quality issues, ownership, return of benefits. A professional perspective. Eur J Human Genet 11 (Suppl 2): 88–122. [PubMed]
  3. Malm J1, Fehniger TE, Danmyr P, Végvári A, Welinder C, Lindberg H, Appelqvist R, Sjödin K, Wieslander E, Laurell T, Hober S, Berven FS, Fenyö D, Wang X,Andrén PE, Edula G, Carlsohn E, Fuentes M, Nilsson CL, Dahlbäck M, Rezeli M, Erlinge D, Marko-Varga GJ. Developments in biobanking workflow standardization providing sample integrity and stability. Proteomics. 2013 Dec 16;95:38-45. doi: 10.1016/j.jprot.2013.06.035. Epub 2013 Jul 13.
  4. TJ Geddes et al. SPIN: Development of Sample-specific Protein Integrity Numbers as an Index of Biospecimen Quality. Biopreservation and Biobanking. 2013 Vol 11(1):25-32. DOI: 10.1089/bio.2012.0039