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細胞療法の自動化:コスト効率が高い医療の秘訣

細胞療法の自動化:コスト効率が高い医療の秘訣
Automating Cell Therapy: the Key to Cost Effective Medicine

 

細胞療法や医療機器はGMP施設において、無菌環境下で製造されます。これらの工程を自動化することは、生産コストの削減に大きく寄与します。(写真提供: Wikimedia)

*Astero Bio社が旧medcision社の事業を承継しておりましたが、Astero Bio社がBioLife Solutions社に吸収合併されたことにより、現在はBioLife Solutions社が事業を引き継いでいます。

細胞療法プロセスの自動化

発展途上の細胞療法産業において、臨床試験段階の細胞療法を全面的に市場製品へと移行する上で大きな問題があります。簡単に説明すると、多数の患者に対して、生細胞の複雑性に基づく治療法やテーラーメード医療を、いかにして時間的・費用的に効率の良い製品へとスケールアップするのか、ということです。
自動化を考えると、ロボット化や、均一に製品を製造する工場の長い組み立てラインが思い浮かびます。
一方で生細胞に基づく治療法デザインは、基本的には高いレベルの科学的知識を要するマニュアルプロセスです。
細胞培養には時間がかかり、細胞が十分にコンフルエントで良好な状態かを知るためには、この分野に習熟した人間の管理が必要です。

細胞の生存や同等性を維持するには、培地や凍結、融解レートをしっかりと管理することが必要です。細胞の増殖や凍結には、滅菌・無菌技術や、生存率や形状識別、機能など、安全パラメータに対する多数の分析が必要です。
製造プロセスへの組み込みが難しい複雑性の一面に特定のタスクを実行するように細胞を調整する(例えば、局在化して、患者に特有のがん細胞を攻撃させるようにする)ことがあります。
この複雑性にも関わらず細胞療法プロセスの自動化法は存在しており、治療用細胞の製造最適化において、その必要性が増していくでしょう。細胞の製造、投与に関連する多くのプロセスの自動化は、費用対効果が高くなければならず、早期の標準化、自動化法の導入は重要です。

一般的には、細胞療法自動化の改善は大きく以下の3つに分けられます。

  • 細胞培養、増殖の自動化
  • 細胞調整プラットフォームの自動化
  • ラストマイルプロセスの自動化

細胞培養、増殖の自動化

細胞療法は細胞種の多様性や複雑性、そして体内における細胞の機能コントロール、増殖、利用をどのように行うのかに左右されます。細胞培養はそのやり方の多くが科学的プロセスよりも技術面で類似しています。

培地、成長因子、培地交換スケジュール、基質、温度、これらの全てまたはそれ以上の要素が細胞の成長や機能に影響します。細胞は環境の変化に極めて敏感であり、これらの環境の管理が下流の機能に影響を与えるだけでなく、一つ一つの細胞の違いを決定する可能性さえあります。実際のところ、そもそも幹細胞が細胞療法や再生医療にとって価値が高いのは、反応性の高さと分化能力があるためです。

生細胞の複雑性が自動化プラットフォームの開発を難しく、かつ高価なものにしている一方で、自動化は細胞の成長、増殖プロセスに大きなメリットをもたらします。[1,2]おそらく最も分かり易いメリットは、閉鎖系細胞培養システムにはコンタミネーションの危険性が少ないということでしょう。培地交換、細胞増殖の監視は離れていても実行可能です。よく管理されたシステムでは、培地量、栄養、温度およびその他のパラメータがそれぞれの細胞集団で全て標準化されており、ヒューマンエラーのリスクも最小です。自動細胞培養システムは、細胞の播種、培地交換、トリプシン処理、細胞の回収など、様々なタスクを処理するようデザインされています。
増殖環境の監視だけでなく、細胞生存率、密度、そしてまた機能アッセイのための、マイクロタイタープレートへの細胞分注に適応しています。

自動化細胞培養システムは標準化を包含しており、スケールアップへの適応が容易で、治療用細胞の製造に適しています。自動化システムは、手間のかかる技術集約的労働時間を削減し、非標準化の労働時間の作業を行うというアウトプットを大幅に増加させることが可能です。自動化はまた、細胞療法産業におけるもう一つの大きな問題の解決にも有効です。すなわち、高度に特化した細胞の大量生産の必用性は殆どありません。研究、開発分析のため、特性の良い細胞の生産を、自動化、あるいは一部自動化されたシステムによって増強する能力は、現在のところかなり良く確立されています。
細胞が増殖する表面積を大きく増加させたバイオリアクタープラットフォームの開発は、細胞療法を目的とする研究所で、必要な細胞の製造を行うことに効果がありました。

一方で、高度に特化した細胞種に対する自動化の改善は、そう簡単にはいきません。
現在FDAに承認されている細胞療法の大半は、幹細胞に由来する臍帯血または骨髄に関連するものが大半です。患者を治療する上で高品質な幹細胞を十分にドナーから獲得するのは難しく、そういった細胞は高価で増殖には時間がかかる上、適切な維持には高いレベルの専門知識が必要です。それらの細胞は希少であり、当然、生産に特化した技術プラットフォームは殆どありません。これらの問題に加え、ドナーの細胞集団内におけるばらつきの問題があります。
このばらつきは、「テーラーメード医療」に必須ではあるものの、一つの細胞を大量生産のテンプレートとして使用することが難しくなっています。

その代わりに、科学者らは、患者に合わせて幹細胞をカスタマイズする二次的配送センターとして、既存の幹細胞療法・血液保管施設を組み込むことが可能なモジュラーアプローチを提案しています。製薬企業では細胞療法をデザインする際、確実に早い段階で入念な製造計画が必要です。

細胞調整プラットフォームの自動化

増殖細胞の調整は、がん免疫療法の分野において極めて重要なトピックであり、細胞療法分野に新しく加わったものの中で、トップレベルの将来性を有しています。がん免疫療法はT細胞の機能を調整し、がん細胞を認識・攻撃し易くすることにより、体自身の免疫系を利用してがん治療を行うものです。キメラ抗原受容体改変T細胞(CART細胞)が、がんに対する新しい有力な方法です。

従来のワークフローでは、T細胞は患者から採取され、より効果を発揮するよう調整が行われ、増殖させて患者の体へ戻され、患者特有のがん細胞と闘います。この有力な治療法は臨床試験段階にある一方で、医薬品科学者はこれらの特化改変されたT細胞の大量生産環境の整備を確実にすべく、既に活動を行っています。[3,4]

細胞療法プロセシングの多面性が、治療用改変T細胞の効率的な生産法確立に重要であり、ワークフローの標準化、単純化、そして閉鎖系細胞培養法の確立が必要であると科学者らは強調しています。
細胞操作の自動化、標準化されたデータ収集法・品質試験・全製品追跡の導入についても推奨しています。また、ポイントオブケア施設におけるテーラーメード医療への適応のため、非中央集約化モデルが提案されています。

ラストマイルプロセスの自動化

細胞療法製品の品質、完全性は製造工程にのみ依存するわけではなく、製造施設外での細胞の取扱方法にも依存します。病院、専門クリニック等のポイントオブケア施設は最終的には、患者に投与される治療用細胞に対して責任を持つことになります。
細胞療法の開発者は、これらの「ラストマイル」プロセス(細胞生物学の訓練を受けていない可能性がある医療関係者が取扱うこと)が、その細胞療法の成功に極めて重要であることを認識しなければなりません。生細胞療法は環境に対して極めて敏感です。保管温度、あるいは冷却・融解速度の変化は治療結果に悪影響を与えます。

ポイントオブケアプロセスでは、標準化、自動化により、他の細胞操作プロセスと同程度の利点が得られます。治療用細胞は通常凍結保存されており、細胞融解はこの最たる例と言えます。なぜなら、流動的な治療タイミングに対応する必要があるためです。[5]

これは、患者への投与前になるべく患者間や治療毎のばらつきを軽減する方法で細胞融解しなければならないということです。ウォーターバスは細胞融解に通常最も使用される方法ですが、自動細胞融解プラットフォームにより、医療関係者はこのプロセスをより良好に行うことが出来ます。
自動融解プラットフォーム(旧medCision社のThawSTARシステムなど)は最小限のトレーニングで使用でき、プロセスのばらつきを削減し、迅速で均一な融解レートを確実に実行します。電気的融解システムはまた、ときに医師が治療法と治療結果をマッチさせようとする際に大きな意義を持つ温度データを自動的に追跡し記録します。

参考文献:
  1. 1. Harris I.A., et al. Automation in Cell Therapy Manufacturing. BioProcess International. April 2016.
  2. 2. Kempner M.E., et al. A Review of Cell Culture Automation. Journal of Laboratory Automation. Nov. 2016.
  3. 3. Kaiser A.D., et al. Towards a commercial process for the manufacture of genetically modified T cells for therapy. Cancer Gene Therapy. 22(2): 72–78. March 2015.
  4. 4. Mock U., et al. Automated manufacturing of chimeric antigen receptor T cells for adoptive immunotherapy using CliniMACS Prodigy. Cytotherapy, 18: 1002–1011. 2016.
  5. 5. Rivière I. Overcoming the Key Challenges in Delivering Cell and Gene Therapies to Patients: A View from the Front Line. Cell and Gene Therapy Insights. July 2016.

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